その日、市内で発生したイレギュラーによる事件を担当したのはゼロだった。
イレギュラー自体は彼にとって大した敵ではなかったが、やたらと数が多かった上、事件の後処理に
時間がかかってしまい、ゼロが自室に戻ることができたのは深夜0時を過ぎた頃だった。

ゼロは、エネルギー残量が低下しており、疲労を感じていた。
とりあえずエネルギーの補給を、と棚を開けてみたが、エネルギーボトルは1本も残っていなかった。
そういえば、今週はまだ支給品のエネルギーボトルを受け取りに行っていなかった。
今は疲れていて、外に買いに行くのは面倒くさい。
少し考えてから、ゼロはエックスの部屋に向かった。
エックスは、支給品のエネルギーボトルを飲むことはめったに無く、いつも余らせていた。
彼は非常に優れたソーラーエネルギー変換装置が搭載されていて、必要なエネルギーの殆どを
太陽光から得ることができるため、必要が無いのだ。
なので彼は、使わなかったエネルギーボトルを他の隊員たちによく譲っている。
ゼロも、何度かエックスの余らせたボトルを貰っていった事がある。
今回も、そうするつもりだった。

エックスは、作業の途中で居眠りしてしまったのか、端末を立ち上げたまま机に突っ伏していたが、
ゼロが軽く声を掛けるとゆっくりと顔を上げた。
「どうしたの…ゼロ。こんな時間に…。」
「夜遅くに、悪いな。エネルギーボトルを分けてくれないか。」
「いいよ…奥の棚にあるから…勝手に持って行って…」
眠たげな口調で言いながら、エックスは部屋の奥を指差した。

「おい、ないぞ。」
棚の中を一通り探してみたが、1本も見つからなかった。
「えー…おかしいな、たしか数本残ってたと思うんだけど…
昨日アクセルにもあげたけど…アイツ全部持っていったのかな…」
まだ眠そうに目をこすりながら、エックスも棚を覗き込んだ。

仕方ない。今日は諦めるか、とゼロは溜息をついた。
「…ゼロ、もしかしてエネルギー足りてないのか?ちゃんと補給しなくちゃだめじゃないか。」
ゼロの疲れたような様子に気付いて、エックスが口を開いた。
「分けてあげるから、こっちに来て。」
何を考え付いたのか、エックスはゼロの腕を引っ張った。

エックスはベッドに腰掛けて、胸部のアーマーを外しだした。
「…どうするつもりだ。」
自分の胸のハッチを開けて、動力炉に接続用コードの先端を繋ぎながらエックスは言った。
「エネルギー足りないんでしょ?オレのを分けてあげる。はい、こっち繋いで。」
他のレプリロイドに直接エネルギーを受け渡す事は、緊急時に止む終えない場合の措置である。
ちょっとこれは大げさ過ぎないか、とも思ったが、エックスの提案を断る理由も無い。
ゼロは差し出されたコードの反対側を受け取った。

「準備できたぞ。」
「わかった。」
エックスが答えてから、数秒後にエネルギーの流入が始まった。
ゆっくりとエネルギーが満たされていく感覚が心地良い。
ゼロがエックスに膝枕してもらう形で横になると、
エックスの指が軽くゼロの顔を撫でた。
しばらくの間、ゼロはその心地良さに身を委ねて目を閉じた。

気が付くと、既にエックスからのエネルギー供給は止まっていた。
ゼロのエネルギー残量は、ほぼ満タンになっている。
そんなにたくさん寄越して、エックスは大丈夫なのかと心配になり、慌てて身を起こした。
エックスの動力炉のランプが、赤く点滅していた。
「おい、エックス、もういい。お前のエネルギーが切れそうじゃないか。」
エックスはゆっくりと目を開けて、緩慢な口調で答えた。
「あー…、しまった。うとうとしてたから…」
少し戻したほうがいい、というゼロの申し出を断って、エックスは動力炉のコードを外した。
「だいじょうぶ…だよ…朝になれば…勝手にチャージされ…るから…」
エックスは引きずるようにカーテンを開けて、そのまま倒れこんだ。
エネルギー残量の低下により、強制的にスリープモードに移行したらしい。
ゼロは、動かなくなった青いボディをなるべく日の当たりそうな場所に移動させ、
姿勢を整えて寝かせ直してやった。
朝が来て日が昇れば、自動的にエネルギーがチャージされ、
いつも通りにエックスは目覚めるだろう。

ぴくりとも動かないエックスの姿は、あまり見ていていい心地がしなかった。
早く朝が来て欲しいと思いながら、ゼロはまだ暗い窓の外を眺めた。

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